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この布団が一番落ち着くんだよ

     心の準備からの続きです。



     私に抱えるのは無理と判断したのか、

  夫は力の抜けきった9キロのたもつを抱えたまま、

     マンション駐車場の階段を駆け上がります。

 夫に運転を任せ後部座席でたもつの様子を窺うと、

    呼吸は荒くないものの、

  意識障害?なのか反応がいつものそれとは違うのです。


     午後8時過ぎ、病院に到着。

 たもつは声も上げず心拍も落ち着いているように見えましたが、

    やはり身体に力が入っていないようでした。

  
  診察室に通されました。

   体重は8.96キロ。

  体温は少し高く39.3℃。

    え? 身体はこんなに冷たいのに?

先生曰く「体温が高いのに体表温度が低いのは良くないんです」と。

  「普通体温が高ければ末端まで温かくなる筈なんです。

    それがないのは良くない状況なんです」とのことでした。

メラノーマの右下顎骨切除のこと、肺への転移が認められること、

  10月1日から脚が立たなくなったこと、

それに伴ってか排尿のコントロールが上手くいかなくなっていること、

   それまではオシッコ量が多かったが、

 この日に限り午前9時台を最後に全く出なくなっていたこと、

午前中手羽先の煮込みを食べて以降はほとんど食べていないこと、
 
  午後5時過ぎにレメロンを服用していること、

 その際クリームチーズを1口食べたが2口目は拒絶したこと、

  3日間便秘が続いていたが、この日3回も排便したこと、

    思いつくことを全て先生に伝えました。

 1週間前にかかりつけ医で行った血液検査の結果を見せると、

   やはり、CaとCRPの数値が気になるとのことでした。

  再度血液検査とレントゲン撮影を行うことになりました。

 眼振が見られるとの指摘を受けましたが、

    自宅ではそれは確認ができませんでした。

 先生曰く「所謂前庭障害ではなく、

   脳障害というレベルのものです」とのことで、

その深刻さに鈍器で頭を殴られたような気持ちになります。

  前回載せた動画(走っているように前脚を動かす様)は

    所謂「せん妄」とのことで、妙に納得がいきました。

 
 たもつは既に自らの身体をコントロールできない状態になっている。

   脳障害が発生していることにより、悲痛な鳴き声を上げ、

        無意識に前脚を走らせている。


         見ていられませんでした。


    暫く待つと、血液検査の結果が出ました。

  1週間前かかりつけの病院で行った検査と比べると、

       驚くほど状態は悪くなっていました。

 基準値に収まっていた腎臓の数値は大きく跳ね上がり、

    脳圧降下剤は使えないとの診断が下されました。

 たもつの視線は定まらず、

   私たちのことを認識できているのかどうかも怪しく、

  どれくらい回復するかと訊くと、先生も唸ってしまいました。

     処置を施してもらっても、

 もう一生私たちのことを認識できないかもしれない……。

  「やはり、ご自宅で看取りたいのではないかと思います」

   先生の言葉に、私たちもただ頷くしかありません。

 やり切れない思いのまま、それでもたもつの命が繋がればと、

      点滴等の処置をお願いしました。

  処置に4時間ほどを要するとのことで一旦帰宅、
 
    お迎えは午前2時頃が予定されました。

     「何かあったらその前に連絡します」

     先生の口を突いて出た言葉に絶句。

       え? 何かあったらって、何?

 病院を出る前、病室にいるたもつに会わせてもらいました。

  エリザベスカラーを着けたたもつは、ぐったりとしていました。


   21-10-11_2130.jpg


    それでも夫が声を掛けると、


  21-10-11_2131.jpg

    
   こちらに視線を向けているように見えます。




    その後は一旦帰宅。

 「少し寝た方が良いよ」夫にそう促しましたが、

  ソファで目を瞑った夫は歯を食いしばったまま、
 
   如何にも苦しげに顔を歪ませています。

      

    午前2時前、病院に着くと、

 待合室は以前にも増して混み合っていました。

     診察室に通されました。

 表情を強張らせ何から説明すべきかと

   少し躊躇いを見せる先生の姿に

私は自身の身体が硬直するのを感じていました。


    血液検査の結果、

 1週間前には基準値内だった項目の数々が、

    あり得ない数値を叩き出していました。

  前述した通り、腎臓の数値も悪く、

 特に、体内の炎症を見るCRPが急上昇していました。

1週間前には4.0(軽度)だったものがこの時には>21.0、

   (重度)を遥かに振り切った数値となっていました。
 
     これはもう……、厳しいのかもしれない。

   他にも様々な症状が出ていました。

 ・メラノーマによる高カルシウム血症の可能性。
   食欲不振・腎障害・傾眠傾向。

 ・1回粘血便。

 ・意識状態昏迷。

 腎機能も消化器機能も一気に悪化したように思われます。

   ただ、心肺音には異常を認められず、
  
    胸水・腹水などもありませんでした。

  レントゲン写真を見せてもらいましたが、

 腫瘍が大きくなっているのか、或いは肺炎の影なのか、

      判断は付かないとのことでした。

  でも、今更もうそんなことはどうでも良かったのです。


 この後、私たちはたもつの為に何をすれば良いのだろう。

  先生の説明によると、

 かかりつけ病院へデータが送られるので、

   今後はそちらでの処置ということで、

・今後皮下点滴になるのか静脈点滴になるのか分からないので、
   針は付けたままで帰宅。

・食事は何を摂るのか、かかりつけ医と相談。

・食事も水もシリンジで摂ることになると思うが、誤飲に注意。


   夫が「どれくらい持ちそうですか?」と訊くと、

  「食べてくれれば1週間くらい……でしょうか」と

     先生は答えを絞り出しました。


    それならギリギリ、

  19日の誕生日まで持つかもしれない。

 たもつは14歳の誕生日を

   家族と共に迎えることができるかもしれない。


  一度待合室に戻り、

 次はたもつのいる診察室へと招き入れられました。

  
   顔を上げ目をキラキラさせ

 私たちとの再会を喜んでくれる姿を期待していましたが、

     やはり状況は厳しいものでした。

  たもつはぐったりと身体を横たえていましたが、
 
 夫が声を掛けると、瞬きをし応えてみせてくれました。

   夫がたもつを抱え、診察室を後にします。

  看護師さんが深々と頭を下げる姿に、

    状況の切なさを思い知らされます。

  
   たもつを抱え駐車場まで歩く夫は、

 「連れて来た時より身体がしっかりしている感じがする」と

      そう話しました。

  やはり、処置をしてもらって良かった。

   後部座席に寝かせ隣に座ると、息遣いも落ち着き、

    もう哀しげな声を上げることもありませんでした。

 「呼吸が落ち着いた? さっきより穏やかになったよね」

      少し浮かれて話す私をよそに、

   「それが怖いんだよ」と、夫はそう呟きました。


 帰宅後、防水シーツを広げた布団にたもつを降ろそうとすると、

  抱き抱えていた夫の腹に彼はオシッコを漏らしていました。

    布団の上にたもつを横たえると、

 息遣いは不規則ながら、苦しそうな様子は見られません。


    左半身を下に寝かせたので、

 右前脚と時折右後ろ脚も、走りっこでもするように動かしています。






   右前脚をあんなに痛がっていたのに……。

  今はそれも忘れ懸命に走る姿に胸が詰まります。

   せん妄による症状なのだと分かってはいても、

 懸命に走っているように見えてしまい、なんだか愛おしい。


 前日訪れた神田明神でのお願い事が神様に通じたのか、

  たもつはこうして無事我が家に帰ってくることができました。

   いつものように私の布団に、

 いつものように夫の方へとその顔を向け、

   それがたもつのベストポジションでした。

とにかく、たもつが安心する場所に帰って来られて良かった。






 たもつの肉球に触れてみると、驚くほど冷え切っていました。

  涎の誤飲がないようにと、タオルで枕を作りました。

 「誤飲の心配もありますが、

首を立て過ぎるとそれも詰まりに繋がります」と言われていたので、

    枕の高さに慎重になってしまいます。

 でも、たもつはもう文句1つ言うことはありませんでした。


   たもつの身体を撫でながら、

 「たもちゃん大好きよ。たもちゃんありがとうね」

   「たもちゃん、ちゃんとおうちに帰って来られたね」

  「たもちゃん、頑張ったね。とっても立派だよ」

 しつこいくらいに、私はたもつに声を掛け続けました。

  「たもちゃん大好きよ」「ありがとうね、たもちゃん」

 顔を寄せそう伝えると、たもつはウィンクで応えてくれました。

       ちゃんと伝わってる!

  「たもちゃん大好きよ。たもちゃんありがとうね」

 いつもより冷たいたもつの身体を摩りながら、

    私は必死に思いを伝え続けていました。


 その後は夫がひと足先に布団に入り、

     たもつに寄り添いました。

  暫くして様子を見に行くと、

 たもつの眠りは安定しているように見えました。


 私はパソコンに向かいターミナルケアのことを改めて学び、

  一方で「お別れの時にすること」にも目を通していました。

来週の誕生日まで持つだろうか、せめて後数日持つだろうか。

  午前4時40分、私が布団に入る時にも、

   たもつの心拍は安定しているように見えました。

 時折ブーブー、時折スース―と、

  たもつの呼吸音は不規則に聞こえましたが、

   決して苦しそうなそれではありませんでした。

 それまでの睡眠不足が響いたのか、

  たもつの呼吸音に神経を尖らせていた筈の私も

    いつしか深い眠りに落ちていました。

   外は既に、白み始めていました。







     長いので続きます。




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No title

いろんなところの数値が急にそんなに悪くなるのですね。
たもちゃん、ちゃんとたもこさんのこともパパさんのことも最後まで分かっていたと思いますよ。
病院に迎えに行ったときもちゃんと目を向けてくれたのですからね。
表面温度が低いのはよくないのですね。
知りませんでした。
ちゃんとお家に帰ってこれてよかったですね。
一緒に添い寝が出来てよかったです!

*はなママ*さま

1週間前の数値がこれまで基準値外だったものが基準値内に収まっていたものもあり、状態も極端に悪いとは思えなかったので、救急で血液検査結果が出た時には非常に驚きました。
連れて行った時には意識昏迷という状態でとても不安でしたが、迎えに行った時には夫の声に反応し先生も「おぉ!」という感じで、ちょっぴりホッとしたんですけど。
とにかく夕方くらいから身体がぐーっと冷たくなって、自分の中での緊迫感が一気に高まったのを覚えています。
体温が高いのにあれほど冷たいのはやっぱりオカシイんですよね。
とにかく家に連れ帰れて良かったです。いつものお布団に寝かせられて良かったです。
プロフィール

たもこ

Author:たもこ
生後2ヵ月で我が家にやってきた柴犬たもつ。
日々進化を続けるたもつと彼に翻弄される犬素人夫婦の日常を綴ります。
旧名たもつ先生です。
たもつ ♂ 
2007年10月19日生まれ

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