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まだ温もりが残っているのに

   「この布団が一番落ち着くんだよ」からの続きです。



 それは怖ろしいまでに緊迫感を孕んだ夫の叫び声でした。

     
      「たもつ? え! たもつっ!?」

         え? なに?

    瞬時に跳ね起きる私。

   「たもつが! たもつがぁ!」

  たもつの身体をグッと引き寄せる夫の目からは、

     みるみるうちに涙が溢れ出てきています。

       え? ちょっと待って!

    え? たもちゃん? たもちゃん!
 
  待って待って。そんな筈ない! たもちゃん!
 
      ちょっと冷たい。

   でも、帰って来た時もちょっぴり冷たかったよね。

     そんな筈ない! そんなのオカシイ、オカシイよ!

  いくら触れてみても、いくら揺り動かしてみても、
  
      たもつに反応はありません。

 慌てて聴診器を当ててみるも、

   もう何の音も拾うことはできませんでした。

    
         「たもつーっ!」


  たもつに覆い被さる夫の目からは

     止め処なく涙が溢れ出てきています。


      たもちゃん! どうして、たもちゃん!

 
   あまりの出来事に、夫も瞬時に脳内を巡らせ

 この2時間ほどの出来事を整理しているようでした。
 
  夫によると「明け方ふと目覚め、たもつの様子を窺った。

       その時にはちゃんと呼吸をしていた」のだそうです。
 
 状況から、恐らくたもつは6時半頃独りで旅立ったと思われました。
 
  ※後にかかりつけの先生と話したところ

     ほぼ間違いないでしょうとのことでした。

    たもちゃん……。
 
 頼りない飼い主を不安にさせまいと、

   たった独りでたもつは逝ってしまったんだね。

 その瞬間が訪れた時私たちが取り乱すのを見越して、

    それを気遣って、たもつは独りで旅立ったんだね。
 
   たもちゃん、立派だよ。たもつは、私たちの誇りだよ。

  カーテンを開け、

 私たちはたもつの最期の雄姿をこの目に焼き付けました。
 
   たもつはとてもとても綺麗な顔をしていました。

  苦しい最期ではなかったのだと、私たちなりにそう思っています。

   下にしていた左目は瞑っていましたが、

     上にしていた右目はしっかりと開いていました。

    これ、ちゃんと瞑らせてあげなきゃ可哀相だよね。

  試みましたが、

    たもつの右目を瞑らせてあげることはできませんでした。

   でも、まだたもちゃんと目を合わせることができる!

  不思議なことに、たもつの背後から迫っても、

      たもつの顔と向き合っても、

   たもつとはしっかりと目が合っているように見えるのです。
 
 無理に瞑らせることないよ、

    せっかくたもちゃんと目が合っているんだもの。



   21-10-12_837E.jpg


      寝起きのように見えるたもつ。

        とっても愛おしい。


  2時間ほど前に学んだケアのことを思い出し、

口や尻から体液などが流れ出ないよう綿を詰めることにしました。
 
 口は……、あれほど気に病んでいた、

   ふとするとズレてしまう噛み合わせが、

 不思議なことに術前の正しい位置に収まっていました。
 
    最期は綺麗なお顔で……、

   たもつなりのプライドだったのかもしれません。

  舌は左下に出てきてしまっていました。

 骨切除した右側ではないのに、

   やはり力が抜けるとこうなるものなんだな。
 
  オムツの中を確認しましたが、中は綺麗なままでした。
 
   前日3回もウンチをして、

  たもつは身体の中をしっかりと綺麗にしてから逝ったのです。
 
    辛い中、たもつはきちんとその準備をしていたんだね。

            カッコイイよ、たもちゃん。

  結局無理に詰め物などはせず、口の下にはタオルを敷き、

        オムツは穿かせたままにしました。

    それから、亡骸が傷まないように、

          保冷剤を身体に纏わせました。
 
 棺に入りやすいよう脚を綺麗に畳み身体を丸めるとも

    書かれていましたが、

  そこに至るまで既に時間が経過していた為、困難でした。
 
    たもつを抱き締めては泣き、たもつを撫でては泣き、

        たもつの毛に顔を埋めては泣きました。


    21-10-12_651-5.jpg



  暫くしてから保冷材の位置を変える為

     たもつの身体を浮かせてみると……。

   え? まだ……、温かい。

 保冷剤をそこここに当てていたにも関わらず、

   布団に面したたもつの左半身は、

  まだ、温もりを失ってはいませんでした。

 え? ウソ! たもちゃん、本当はまだ生きてるの!?
    
      そんな筈……ないよね。

    でもまだ、少しだけ、温かい。
 
  その記憶を失いたくなくて、

 私たちは入れ替わりたもつのことを抱き締め

    その温もりの感触を肌に植え付けました。
 
       たもちゃん、まだ温かい。
 
   外はもうすっかり明るくなってきていました。

  「この後どうすれば良いの。俺、全然分からない……」

         夫は力なく呟きました。

 私はふと、たもつのお友達ワンコさんが

   荼毘に付された時のことを思い出していました。

     彼のことを大大大好きだったたもつ。

  彼が荼毘に付されると聞いていたその時刻、

 たもつはその方角のお空に向かい2回3回「ワオーン!」と

        寂しげな声を上げ鳴いたのです。

  それは、大切なお友達がお空に昇ることを

    理解しているかのような行動でした。

 そして、その記憶は深く私の心に刻み付けられました。

   彼と彼の妹分ワンコさんが旅立った

     その霊園にお願いしよう、二人でそう決めました。

  その日の晩はまた同じ布団で寝て、

     翌日お見送りをすることに決めました。

    その後は夫と共に花を買いに。
 
  「たもちゃん、お留守番お願いね。

    たもちゃん、すぐ帰ってくるからね」

   いつものように声を掛け、

  いつものようにたもつの頭を撫でてから家を出ました。


    21-10-12_1349-3.jpg


    お見送りの花はたもつらしく、

 黄色やオレンジ色の明るい色合いのものにしました。

 
   その日の午後、たもつのことを0歳児の頃から

  可愛がってくれていたお友達が訪ねてきてくれました。

  「たもつ、もう何でも食べて良いんだもんね」

      そうたもつに語り掛けると、

 「棺の中に入れてあげて。

   たもつの口の周りにいっぱい並べてあげるんだよ」と

 彼女は持ち切れないほどたくさんのオヤツを手渡してくれました。



   21-10-12_1405.jpg


たくさんのオヤツに囲まれて、最期の時を過ごしているたもちゃん。


 大好きな人にいっぱいいっぱい撫でてもらって、

    いっぱいいっぱい語り掛けてもらって、本当に幸せだね。

たもつの思い出話に泣き笑い、可愛いポン太をナデナデさせてもらい、

     バカ話もたくさんしていたら、

   いつの間にか張り詰めた気持ちが少し軽くなっていました。



   21-10-12_1410.jpg


  ポンポン、たもつのお別れに来てくれてありがとうね。

           本当に嬉しかったよ。


  彼らが帰ってしまうと、

 家の中は耐えられないほどの静寂に包まれました。 

   たもつを撫でながら泣き、この怒涛の1日のことを振り返り、

           また泣きました。

  夜になりたもつの身体を少しだけ動かすと、

   下にしていた左の鼻から血が滴り落ちてきました。

     今になって、体内のものが出てきてしまうんだね。

  慌ててコットンを鼻に詰めましたが、


    21-10-12_2027-1.jpg


 なんか……、鼻炎で鼻水垂れてる人みたいじゃない?(笑)


   オムツの中を確認してみると、

  宿便のようなウンチがやはり少しだけ出ていました。

 あちこち詰め込むのが可哀相に感じていましたが、

   最期のケアの必要性を改めて感じた出来事でした。

  その晩もたもつの背の毛を撫でながら、眠りにつきました。


  翌朝目覚めてみても、たもつの身体はやはり冷たいままでした。
 
    たもつを抱き締め「大好き」を伝えて泣き、

      それを幾度となく繰り返す朝。

  夫もまたたもつを思っては顔を歪ませ、

        抱き締めては泣いています。


   午前中かかりつけの病院から供花が届きました。

  たもつが赤ちゃんの時から14年近く診てくれた病院です。


その後はたもつの幼馴染ワンコさんのお母さんが

       訪ねてきてくれました。

  彼女は鼻の詰め物のあまりの有り様に呆れ(笑)


    21-10-13_1139-1.jpg


     こんなに綺麗に整えてくれました。


  たもつをたくさん撫でてくれて、

 私たちの気持ちに寄り添ってくれて励ましてくれて、

    感謝以外の言葉が見付かりません。

  私たちの体調を気遣い、

 食事まで届けてくれた彼女の心遣いに

    もう頭が下がるばかりです。


   たもちゃん。

  たもちゃんのお陰で、

 私たちはたくさんの優しい人たちと巡り会うことができたんだよ。
 
     たもちゃん、ありがとうね。


  午後にはたもつと本当のお別れをしなければなりません。
    
      雨はますます強くなってきていました。




     続きます。





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プロフィール

たもこ

Author:たもこ
生後2ヵ月で我が家にやってきた柴犬たもつ。
日々進化を続けるたもつと彼に翻弄される犬素人夫婦の日常を綴ります。
旧名たもつ先生です。
たもつ ♂ 
2007年10月19日生まれ

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