もう帰ってもいいよ
5月1日(土)
2回目の面会日だったこの日、
高度医療センターK先生より電話が入りました。
「たもつちゃん、とっても順調です。
とても急なんですけれども、
今日(面会で)お越しになった時に、連れて帰られますか?」
え? え!?
退院は4~5日先になると考えていたので
戸惑いも少なからずありましたが、
(本人も寂しがっているだろうし)ということで、
この日の午後急遽迎えに行くこととなりました。
退院を無条件に喜べなかったのは、
(傷口は大丈夫か。痛みは? 点滴はもう不要なのか?)と
数々不安があったからでした。
診察室でたもつと再会。
相変わらずカラーを着けたままのたもつ、
痛々しさに変わりはありませんが、
2日前面会した時より顔の状態は良いように見えました。
「カエルさんのように」ぷっくり膨らんでいた部分、
腫れはもうすっかり引いていました。
首から下の弛みは以前からのものなので、
手術とは無関係とのこと。
右側にずれていた下顎も、
正しい位置に若干戻ってきたような気もします。
今思うと、見慣れただけだったのかもしれませんが。
先生の説明によると、
・終始とても良い子だった。
術前は触らせてくれなかった口も、術後は大人しく触らせてくれた。
先生恐らくこれまで「柴の厄介さ」に苦労されてきたのでしょう。
・トイレは問題なく入院室でできていた。
・今朝は食事もしっかり摂った。
・普通は唾液がかなり漏れ出てきてしまうものなのだが、それもない。
カラーにシートを付けているのは唾液を受ける為だったのですが、
まったく汚れていません。
・首のところ、カラーの端でかぶれてしまったかもしれない。
→ その後かぶれはすぐに治りました。
・痛み止めはもう不要。
抗菌薬(サワシリン)を1日2回服用すること。
・ご飯は手から食べさせてあげた方が良いかも。
→ 帰宅後手で食べさせましたが、
マズルの先が上手く合っていないので、
皿からの方が食べやすいようでした。
・抜糸は8日(土)を予定。カラーはそれまで外さないこと。
抜糸は麻酔ではなく、鎮静剤で行う。所要時間は1~1時間半。
質問ありますか?と訊かれたので、
・患部に触れる際、たもつの衛生上、手を消毒した方が良いか?
→ 必要ない。犬の口の中の方が寧ろ雑菌だらけなので。
・カラーのシートは毎日交換した方が良いか?
→ そこまで神経質になる必要はない。
・食事について、炭水化物を減らした方が良いか?
※腫瘍のある子の食事は炭水化物を減らすことが推奨されています。
→ よく言われている食事指導だが、
例えば「腎臓疾患のある子ならタンパク質多めは良くない。
膵臓疾患のある子なら脂肪多めは良くない」等あるので、
極端なことはしなくて良い。
心掛けるとしたら、オメガ3脂肪酸をしっかり摂ること。
「QOLを重視し、好きなものを食べさせてあげてください」
先生のこの言葉に、
先の時間に限りがあることを念押しされたようで落ち込みます。
午後2時半、無事退院。
術前含め、1週間の入院生活でした。

帰りの車内。
カラーが鬱陶しいようでしたが、
たもつは手慣れた様子で体勢を整え出発に備えます。
左前足を私の太股に乗せる姿に、
愛おしさが込み上げてきます。
途中何度か口の不快感を訴え身体を捩らせていましたが、
それも次第に落ち着きました。
雨雲が迫ってきていた為、河原散歩を割愛しそのまま家へ。
家のドアを開け入るのを促すも、
一瞬戸惑ったような仕草を見せます。
「おうちだよ。おうちに帰って来たんだよ」

帰宅後ベランダのガラスを開けていると、
ベランダにこそ出ませんでしたが、
そこで風の匂いに鼻をひく付かせていました。
(帰ってきたことを実感してくれたかな?)
我が家に戻ったことを実感し気持ちに余裕が生まれたのか、
その後は「カラーを外したい」「口の違和感をどうにかしたい」
「耳を掻きたい」「頬を掻きたい」と七転八倒の大騒ぎに。
小走りで廊下を行ったり来たり、とにかく落ち着きません。
(入院生活でも足腰は弱ってないんだな)
水をがぶ飲みしましたが、ご飯には興味を示しませんでした。
その後も家の中を歩き回り、
壁のそこここをカラーの端で削り取っています。
(たもちゃーん。おうちが無くなっちゃうよー)
壁に頭をぶつけるのではとヒヤヒヤしましたが、
カラーが緩衝材となり、
そこそこ乱暴な動きをしても怪我はないだろうことが分かりました。
これまでカラーの装着経験がなかった訳ではありませんが、
ここまで大暴れすることはなかったので、
今度は打ち身や骨折で病院のお世話になるのでは?と
心配になるほどでした。
家中散々歩き回りもう行き先がないと思ったのか、
たもつは不意に押し入れの中へと姿を消しました。
夫が様子を見に行ってみると……、
「あ! オシッコしてる!」
えーっ!? 押し入れの中で?
オシッコーっ!?
慌てて駆け寄ると、
たもつは足裏をオシッコで濡らし、満足気な表情を浮かべ、
押し入れから出てくるところでした。
なんでまた、押し入れの中なのよーっ!(泣)
それでも大手術から生還したたもつに
小言を言う気にはなれませんでした。
その後も「カラーの不快感、口の中の違和感と闘い続け、
疲れては眠る」を、繰り返していたたもつ。
(こんな状態で大丈夫? ストレスで気が狂ってしまうのでは?)
痒み止めを服用したからか格闘に疲れ果てたからなのか、
たもつがようやく深い眠りについたのは
午前1時半を回る頃のことでした。
たもつは夜中に何度か起き、
触れることのできない口元をカラー越しに引っ叩き、
ジタバタと藻掻いていましたが、
一旦寝入ると眠りは深いようでした。
私の身体に密着して眠るのは相変わらず、
カラーの端で何度となく顔を叩かれましたが、
それも今は苦になりません。
翌朝は夫が散歩に連れて行きました。

術前より動きも軽やかになっていたようです。
少し痩せたせいかもしれません。
この日も相変わらずジタバタと藻掻いています。
傷口が気になるというより、
噛み合わせの悪さに苛立ちがあるようでした。
右下犬歯はまだ外にはみ出している時間が長いです。
上手く嵌めてあげようと顎を触っても
嫌がる様子は見せません。
それでも無理に顎を動かすのも怖く、躊躇ってしまいます。

夜、水皿の中に異物を発見。
拾い上げると縫合に使われた糸のようでした。
ナイロン製でしょうか、
触ってみると想像以上に硬く、
(これが口の中にあったらかなり気持ち悪いだろうな)と
同情してしまいます。

口腔内を縫合した糸です。
外れてしまって大丈夫なのかと心配でしたが、
幸い出血はないようでした。
退院後は朝に晩に大暴れでした。
口の嚙み合わせをどうにかしようと藻掻く姿に、
見ている私たちも疲弊していました。
私たちは睡眠も満足に取れず、
夫の顔からは血の気が失せ今にも倒れそうでした。
たもつのエリザベスカラー、
病院で付けてくれたシートはボロボロになり、
凶器にもなりかねないと端の部分を覆ったものの
それも見事に破壊され……。

疲れ果てて寝落ちしてしまう姿に、胸が締め付けられます。
その後カラーをあれこれ繕うことは諦めましたが、
問題はありませんでした。
カラーの端で叩かれることに、
私たちもすっかり慣れてしまったのです(笑)

退院から2日、表情も心なしか明るくなってきました。
それにしても……、
退院からのこの地獄生活、
どうやって抜け出せば良いのでしょうか。
……続きます、たぶん後1回。
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