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その間(はざま)

        ※ 予約投稿です。 


   実家の父の状態が、あまり思わしくありません。

     身体的に……ではなく、精神的にです。

       脳の状態が、良くないのです。

  素人目から見ても、父は認知症を患っています。

   素人目でしか見られないのは、

     父を病院へ誘うことが未だ叶わずにいるからです。


    「認知症のこと、調べておいてくれる?」

 初めてそう母から頼まれたのは、いつのことだったでしょうか。

      母が逝って三年以上が経ちますから、

    もう四、五年も前のことかもしれません。

   物忘れが激しい、見当違いのことを言う……、

  おそらく初めのうちはその程度の症状だったのでしょう。

   その後母の膵癌が見つかり、

真夜中土砂降りの雨に打たれ額から血を流しながら父が帰宅した時にも、

   妻の余命を知らされ悲嘆に暮れたが為のことなのだ、

 そう信じることで家族はみな父のその奇怪な行動について

           自らを無理に納得させていたのだと思います。

    なぜあの土砂降りの中、外へなど行ったのか?

  家族にそう問い質された父が口にした
   
    「だって、ウォーキングに行かなきゃと思って……」

               という台詞にも無理やり蓋をして。

   ウォーキングは、当時両親が日々の日課にしていたことで、

まあ出不精の父を引っ張り出すのに母は相当苦労していたようですが、

   それでも調子のいい時にはかなりの距離を歩いていたらしく、

  また通りすがりの庭先の花々に季節の移ろいを感じながら、

       夫婦の穏やかな会話を楽しんでもいたようで、
    
 父にとってもそれは妻との歴史を紡ぐ欠かせぬ修行(笑)だったようです。


     勿論冷静に考えれば、 

 真夜中それも土砂降りの雨の中

   たった独りでウォーキングに出るなど、

        正気の沙汰とは思えません。

    ただその時は、

 余命を告げられた母を気遣うことが全てのことに優先され、

      母は勿論姉もそして離れて暮らす私も、

父が既に患い始めているということに考えが及ばなかったのです。




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           たもちゃん。その体勢、辛くないかい?




   その後母が逝き、

  感傷に浸る間もないまま葬儀を終え四十九日を迎え、

    一人少なくなった家族構成にもいつしか慣れ、

 満ち足りているとは言わないまでも

   父はそれなりに日々を送っているものだと思っていました。

  勿論、記憶が曖昧になり知的好奇心も弱くなり、

今まで当たり前に理解できていたことに対し

     不安げに首を傾げるようなことも増えてきてはいました。

   ただ「病院で、少し診てもらおうか」と促すには、

      父はまだ頑強過ぎました。


   
     夫に、零したことがあります。

  「認知症ってさ、

急に『あー』とか『うー』とか訳分かんなくなっちゃうもんじゃないんだよね」

    「そんなぁ。いよいよそういうふうになったら

      意思の疎通ができなくなっちゃって寂しいと思うよ」

  「ふーん。

   けど、子供の頃から意思の疎通なんてできた試しがないもん」

      「へ?」

   夫は大いに呆れ、そして嘆息を漏らしました。

実際子供の頃より、父に思いが通じたと感じた記憶はあまりありません。

     「お前は変わってるなぁ。俺から見たら、宇宙人みたいだ」

  私は私で、父の話に熱心に耳を傾けるフリを演じながら、

その実どこか冷めたまま、父が話し疲れて自室へ篭もるまで、

    ただ無意味に時をやり過ごしていたように思います。

 父の話が有意義であろうがなかろうが懸命に頷き続けていたのは、

      そうしなければちゃぶ台が返され、

投げつけられたリモコンによりひび割れたテレビ画面を

        目の当たりにせざるを得なくなるからでした。



      
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       “オヤツ場”から動こうとしないたもやん。

 「かーちゃん、オヤツ出すまで動かないよ」と言ってます。

          ワンコとは意思の疎通ができるのにね。




      ともあれそれは、

  雨の一滴がいつか岩盤に穴を開けるように、

    静かにそしてゆっくりと、 

   父の脳を蝕んでいったのでした。

     
      夫に告げました。

  「うちのお父さん、結構呆けてきちゃってるからね」

 「そんなぁ。娘のところにちゃんと電話してこられるんだから、

             全然呆けてなんかないでしょ」

    励ます為か慰める為か、

      夫はそう言ってカラカラと笑いました。




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          そうやって上段から構えてるうちにさ、

       みんなはほら、もう河原一周してきちゃってるよ。

           


   「お祖母ちゃん、最近よくフラフラと出掛けていくよね」

      「お母さん、また火を点けっぱなしにしてたでしょ」

 「お祖父ちゃん、弟が亡くなったのはもう三十年も昔の話だよ」



       「お父さん、……もしかしたら認知症なのかも」



    「認知症」と「そうでない」間(はざま)って、

                いったいどこにあるのでしょう。

       「骨を折ったんだね」

           「指を切ったんだね」

   そんなふうに分かり易い症状ならば

       誰でも躊躇うことなく病院へ向かうものなのに、

     「ちょっと度忘れしたからって」

       「ちょっと道を間違えたからって」

   病人扱いされるなんて心外なんだよ……、

 そう受診を拒みたくなる気持ち、私にも理解はできます。





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        「かーちゃん、入れてよ」

    そんな目で……。こっちが虐待してるみたいで凹むわ。





     「俺が死んだら……。俺の家が乗っ取られちゃう!」

   ここ数日、実家の父を悩ませるのはそんなこと。


 認知症の中核症状の一つでもある、「もの盗られ妄想」ですね。

そもそもが妄想的になりやすい素質を持つ父が繰り広げる「作り話」

     それはもうこちらの度肝を抜くものばかりで、

   「作り話」に絡み付いた「作り話」を解きほぐすのは、

       常人には容易いことではない訳で……。


妄想を治療する抗精神病薬が効果を上げることもあるというので、

      病院で診てもらう方を探ってはいるのですが、

           益々頑なな父のこと、

 自身が「認知症」を認知することなくお迎えを待つばかりなのかと、

    周囲は懼れを抱きただ見守るばかりなのです。




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            とーちゃん、涼みに行こうよ~ 




      
  実はとても切羽詰った状況なので、

     今後益々ネガティブ記事が増えるかも……。

    暗いの嫌なんだよ!って方は、スルーしてくださいませ 



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プロフィール

たもこ

Author:たもこ
生後2ヵ月で我が家にやってきた柴犬たもつ。
日々進化を続けるたもつと彼に翻弄される犬素人夫婦の日常を綴ります。
旧名たもつ先生です。
たもつ ♂ 
2007年10月19日生まれ

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