ありがとう、ごんちゃん
時が過ぎるのは本当にはやいものですね。
1年前の今日、
たもつの大大大好きな先輩ワンコごんちゃんが、
遠いお空に旅立ちました。
17歳の誕生日を迎えた翌日のことでした。
ごんちゃんと初めて会ったのはたもつが0歳の頃。
たくさんのワンコが集まるグランドにお邪魔するようになって、
1~2ヶ月が過ぎた頃のことでした。
ごんちゃんは、ワンコたちの中でも一目置かれる存在で、
妹分のサファイアちゃんと連れだってグランドに姿を現すと、
新入りワンコは遠巻きに、親しい後輩ワンコはご機嫌伺いにと、
グランドの中はとたんに慌ただしい様相を呈し……。
彼らの飼い主さんがワンコの使い手ということもあり、
彼らはいつもワンコとその飼い主さんに取り囲まれていましたね。
ごんちゃんに初めて会った日は、
友達ワンコと追い掛けっこに興じ
テンションマックスだった我が家の坊主。
ごんちゃんとサファイアがグランドに現れると、
「だれぇ? ねっ、ねっ
初めて会うよねぇ?
」
「ぼくはたもつ。たもつっていうんだよ~
」
「ねぇ、誰? ぼくと遊ぼうよ、遊ぼうよぉ
」
と、初対面の先輩方相手に大暴走
「ごんが怒るよ! ごんが怒るってばぁ!」
ごんちゃんの首根っこを掴まえたまま、
飼い主さんは、興奮気味にごんの懐に潜り込もうとするたもつを必死で制御。
「この子(たもつ)、オス? メス?」
「オスですぅ~
」
「去勢してる?」
「してないですぅ~
」
「ごんが怒るよぉ
」
恥ずかしながら……、
坊主をとっ捕まえることもままならない私は、
ごんちゃんの飼い主さんにお任せ状態。
「初めて会う子には(どんな対応するか)分からないよ
怒るかもしれないからーっ
」
……と心配する飼い主さんをよそに、
たもつはごんちゃんの元へガンガン攻め入っています。
あ、危なっ
「あれぇ? 怒らないや」
去勢も済ませていない生意気盛りの我が家の坊主を、
ごんちゃんはいともあっさり、
受け入れてくれたように見えました。
鬱陶しいくらい纏わりつくたもつに、
ごんちゃんは一喝すらしないんですよね。
その後も、グランドでの遭遇率は低いものの、
たもつはなぜかごんちゃんとサファイアちゃんのことを
異様なまでに慕うようになり……。
ホント、ストーカーですか?ってくらい
グランド脇の道を彼らがやってくる姿を目の端に捉えると、
仲良しの遊び仲間もお気に入りのボールも放置、
グランドの入口目掛けてまっしぐらなのです
高揚感を抑えきれないたもつは時にグランドのネットを潜り抜け、
門扉の隙間をすり抜け道路へ飛び出して行ってしまったことも。
ぎゃお



待たんかーい
たもつの暴走っぷりを心配した他の飼い主さんたちは、
彼らの姿を遠くに捉える度、
「来たよ~
」と叫び、
その声を聞いた私は、
「たもちゃん、オヤツオヤツ」と坊主を誘い、
彼らの姿が坊主の視界に入らぬようにと、
不自然な方向へと誘導せざるを得ない状態で。
とにかく、
たもつは呆れるほどごんちゃんのことが大好きで……。
暫くするとグランドが立ち入り禁止になり、
その後サファイアが河原のあるこちらの方まで歩くのを渋るようになると、
ごんちゃんは、
飼い主さんが漕ぐ自転車の後ろカゴに乗って、

ワンコたちが集まるプールのある公園にお散歩にくるようになりました。

目は不自由になっていたけれど、
たもつなんかよりよっぽどよく歩いて、

ちょっと見ると、たもつと見間違えちゃう。


よく見ると全然違うんだけど、
なぜか、どーしてだか、
取り違えちゃうことがよくあったんですよね。
グランドで野放しなんかにしていると、
「ごん、帰るよ~」と言った飼い主さんが、
たもつをとっ捕まえようとしちゃったり、
「ごらぁ、どこ行っとんじゃーっ!」とワナワナする私が、
ごんちゃんの後ろを追い掛けちゃったり。
「ごんとたもつは、どっかで血が繋がってるんだよ~」
なんて、ごんちゃんの飼い主さんが言ってくれると、
なんだかとっても嬉しかったな
そのごんちゃんが、
「もう、あまり食べられないんだよ」
というまでに弱々しくなったと聞いたのは、
本当に寝耳に水の話で……。
たまたま飼い主さんのところを訪ねたのが、
ごんちゃんが17歳の誕生日を迎えた8月9日のこと。
飼い主さん抱かれて玄関先に出てきてくれたごんちゃんは、
もう自力で頭を起こしていることもできないような状態でした。
鼻先に手を近づけてみても、
ごんちゃんはほんの少し鼻をフンフンさせたきり、
もうそれ以上オヤツを欲しがるような素振りを見せることもなく……。
目が不自由になっていたごんちゃん。
オヤツをそっと鼻先に持って行くと、
勢い余って私の指先までパクリしちゃうことがあったんですよね。
でも、そのパクリが大好きで、
ごんちゃんの、そのパクリが愛おしくて堪らなかった。
その日のごんちゃんは、
パクリどころか鼻先を少し動かしたきりで、
もう色んなことに反応することに疲れてしまったように見えました。
「ごんちゃん、パクってやってごらん。
ほら、パクってやって……」
泣きそうになるのが怖くって、
私はもうそれ以上を言葉にすることができませんでした。
「自分で、(頭を)起こしてられないの」
飼い主さんは気丈に振る舞ってくれていたけれど、
私は胸が詰まって
気の利いた言葉一つ絞り出すことができませんでした。
あぁ……、
「食べられないって言っても、流動食とかあるんでしょ?」とか、
「暑い夏を乗り切れば、回復してくるんじゃない?」とか、
まるで慰めにもならないことを、
ただつらつらと並べ立てていたような気がします。
玄関先のヒンヤリしたコンクリートの上にごんちゃんを寝かせると、
飼い主さんは、
あまり無理な延命はちょっと……、
ということを話してくれました。
勿論、1分でも1秒でも生きてほしい、
それが本音であったことに違いはありません。
それでも、ごんちゃんにとっての幸せを考えれば、
無理をさせず自然に任せる……ということだったのだと思います。
飼い主さんと私の間に寝そべったごんちゃんは、
寝ているのか、寝たふりして飼い主さんの声に耳を傾けているのか、
心なしか優しい笑みを浮かべているようにも見えて……。
ごんちゃんの柔らかい毛並みを撫でる私は、
彼を癒してあげているつもりが、
いつしか癒されていることに気付きましたね。
本当に、ギュッと抱き締めたくなるくらい、
優しくて穏やかな寝顔だったんですよね。
本当に危ない状態なのか信じられないままに、
その晩、私はごんちゃんの家を後にしました。
「ごんが死んじゃった」
その電話を受けたのは、
あれから1日と経たない翌日の昼過ぎのことでした。
ワンコの死を聞いてあんなに泣いたのは、
初めてのことでした。
その後、親しかったワンコ友達と集まりました。
ごんちゃんにお別れを言うためでした。
ごんちゃんの家へ向かう車内で、
私たちはなぜかごんちゃんとは無関係のバカ話でその場を繕い、
奇妙な緊張感を保ったまま車を走らせました。
ごんちゃんのことを話せば緊張の糸が切れてしまうことを、
みな一様に感じていたからだと思います。
ごんちゃんは、目一杯冷房の効いた部屋で、
花に囲まれて横たわっていました。
まるで、眠っているだけのように見えました。
たもつはそっと歩み寄ると、
いつものようにごんちゃんの口元に鼻先を近づけました。
何を、思ったんでしょうね。
普段ならしつこいくらいごんちゃんの口元を舐めに行くたもつが、
その日はそれ以上纏わりつくことをせず……。
ごんちゃんの身体は、まだ熱を持っているようでした。
本当に亡くなっているのが信じられないくらい、
身体はほんのりと温かく、その毛もいつものように柔らかでした。
たもつにそっくりの口元を撫でながら、
ごんちゃんが本当に亡くなってしまったということを、
私は無理やり実感に変えようとしていましたね。
その後暫くごんちゃんを囲んで会話を交わしていましたが、
なぜかたもつが、ごんちゃんの元へ近寄ろうとしないんです。
一緒に訪れた音吉さん(ごんちゃんの後輩ワンコ)が、
ごんちゃんの眠る布団の端っこでまったりしているのにも関わらず、
たもつはなぜか、その部屋を出たいと愚図り始め……。
なんだかいつもと違う……。
たもつは、少しだけ、怖かったのかもしれません。
大好きなごんちゃんが少しずつ冷たくなっていっていることに、
たもつは耐えられなかったのでしょう。
翌日は前日に続き、太陽がギラギラと輝く暑い日でした。
たもつは私たちとは距離を置き、
独り和室の窓際でぼんやりと空を仰いでいたんですよね。
それは、お昼を少し過ぎたときのことでした。
たもつが突然空に向い、
「ワォ~ン」と鳴いたんです。
それは威嚇の声でも恐怖に怯えた声でもなく、
それまで一度も聞いたことのない、
なんとも切なくやるせない鳴き声だったんです。
「ごんちゃんが、来たの?」
咄嗟に、夫と私は顔を見合わせましたね。
その時刻も、たもつが見上げたその空の方角も、
ごんちゃんが荼毘に付されると聞いていた、
時刻と方角を指していたからでした。
抜けるような青空に向かい、
掠れたような声で、たもつは2回3回と鳴きました。
ごんちゃんが、
「さよなら」を言いに来てくれたのだと思いましたね。
たもつはもしかしたら、
「どこ行くのーっ! 行かないでーっ!」って、
必死に叫んでいたのかもしれません。
私たちの中に不思議な空気が漂い、
ごんちゃんは本当にお空の向こうに旅立ったのだ、
たもつはちゃんとお別れすることができたのだと、
私たちは自分たちを納得させることができたような気がします。
それでも……。
たもつを連れて歩くいつもの公園、
その公園の向こうから、
ごんちゃんを後ろに乗せ猛スピードで自転車を漕ぐ彼女の姿が現れるのではないかと、
たもつも私も淡い期待を抱きながらその方向へ目を遣り、
そして落胆し、
二人何事もなかったかのようにトボトボと散歩を続ける日々が、
その後暫くの間は続きましたね。

大人しく後ろカゴに乗ってたよねぇ。
そのうちたもつも彼女の自転車を探すのを止め、
つられるように私も、期待することを諦めたのでした。
ごんちゃん、
天国で新しいお友達はできましたか?
知ってると思うけど、
サファイアのところに新入りちゃんが来ましたよ。
サファイアのこと、新入りぽん太のこと、
ずっと見守ってあげていてね。
たもつと仲良くしてくれて、本当にありがとうね。
天国でも幸せにね、ごんちゃん。

ごんちゃん たもつ
1年前の今日、
たもつの大大大好きな先輩ワンコごんちゃんが、
遠いお空に旅立ちました。
17歳の誕生日を迎えた翌日のことでした。
ごんちゃんと初めて会ったのはたもつが0歳の頃。
たくさんのワンコが集まるグランドにお邪魔するようになって、
1~2ヶ月が過ぎた頃のことでした。
ごんちゃんは、ワンコたちの中でも一目置かれる存在で、
妹分のサファイアちゃんと連れだってグランドに姿を現すと、
新入りワンコは遠巻きに、親しい後輩ワンコはご機嫌伺いにと、
グランドの中はとたんに慌ただしい様相を呈し……。
彼らの飼い主さんがワンコの使い手ということもあり、
彼らはいつもワンコとその飼い主さんに取り囲まれていましたね。
ごんちゃんに初めて会った日は、
友達ワンコと追い掛けっこに興じ
テンションマックスだった我が家の坊主。
ごんちゃんとサファイアがグランドに現れると、
「だれぇ? ねっ、ねっ


「ぼくはたもつ。たもつっていうんだよ~

「ねぇ、誰? ぼくと遊ぼうよ、遊ぼうよぉ

と、初対面の先輩方相手に大暴走

「ごんが怒るよ! ごんが怒るってばぁ!」
ごんちゃんの首根っこを掴まえたまま、
飼い主さんは、興奮気味にごんの懐に潜り込もうとするたもつを必死で制御。
「この子(たもつ)、オス? メス?」
「オスですぅ~

「去勢してる?」
「してないですぅ~

「ごんが怒るよぉ

恥ずかしながら……、
坊主をとっ捕まえることもままならない私は、
ごんちゃんの飼い主さんにお任せ状態。
「初めて会う子には(どんな対応するか)分からないよ
怒るかもしれないからーっ

……と心配する飼い主さんをよそに、
たもつはごんちゃんの元へガンガン攻め入っています。
あ、危なっ

「あれぇ? 怒らないや」
去勢も済ませていない生意気盛りの我が家の坊主を、
ごんちゃんはいともあっさり、
受け入れてくれたように見えました。
鬱陶しいくらい纏わりつくたもつに、
ごんちゃんは一喝すらしないんですよね。
その後も、グランドでの遭遇率は低いものの、
たもつはなぜかごんちゃんとサファイアちゃんのことを
異様なまでに慕うようになり……。
ホント、ストーカーですか?ってくらい

グランド脇の道を彼らがやってくる姿を目の端に捉えると、
仲良しの遊び仲間もお気に入りのボールも放置、
グランドの入口目掛けてまっしぐらなのです

高揚感を抑えきれないたもつは時にグランドのネットを潜り抜け、
門扉の隙間をすり抜け道路へ飛び出して行ってしまったことも。
ぎゃお




待たんかーい

たもつの暴走っぷりを心配した他の飼い主さんたちは、
彼らの姿を遠くに捉える度、
「来たよ~

その声を聞いた私は、
「たもちゃん、オヤツオヤツ」と坊主を誘い、
彼らの姿が坊主の視界に入らぬようにと、
不自然な方向へと誘導せざるを得ない状態で。
とにかく、
たもつは呆れるほどごんちゃんのことが大好きで……。
暫くするとグランドが立ち入り禁止になり、
その後サファイアが河原のあるこちらの方まで歩くのを渋るようになると、
ごんちゃんは、
飼い主さんが漕ぐ自転車の後ろカゴに乗って、

ワンコたちが集まるプールのある公園にお散歩にくるようになりました。

目は不自由になっていたけれど、
たもつなんかよりよっぽどよく歩いて、

ちょっと見ると、たもつと見間違えちゃう。


よく見ると全然違うんだけど、
なぜか、どーしてだか、
取り違えちゃうことがよくあったんですよね。
グランドで野放しなんかにしていると、
「ごん、帰るよ~」と言った飼い主さんが、
たもつをとっ捕まえようとしちゃったり、
「ごらぁ、どこ行っとんじゃーっ!」とワナワナする私が、
ごんちゃんの後ろを追い掛けちゃったり。
「ごんとたもつは、どっかで血が繋がってるんだよ~」
なんて、ごんちゃんの飼い主さんが言ってくれると、
なんだかとっても嬉しかったな

そのごんちゃんが、
「もう、あまり食べられないんだよ」
というまでに弱々しくなったと聞いたのは、
本当に寝耳に水の話で……。
たまたま飼い主さんのところを訪ねたのが、
ごんちゃんが17歳の誕生日を迎えた8月9日のこと。
飼い主さん抱かれて玄関先に出てきてくれたごんちゃんは、
もう自力で頭を起こしていることもできないような状態でした。
鼻先に手を近づけてみても、
ごんちゃんはほんの少し鼻をフンフンさせたきり、
もうそれ以上オヤツを欲しがるような素振りを見せることもなく……。
目が不自由になっていたごんちゃん。
オヤツをそっと鼻先に持って行くと、
勢い余って私の指先までパクリしちゃうことがあったんですよね。
でも、そのパクリが大好きで、
ごんちゃんの、そのパクリが愛おしくて堪らなかった。
その日のごんちゃんは、
パクリどころか鼻先を少し動かしたきりで、
もう色んなことに反応することに疲れてしまったように見えました。
「ごんちゃん、パクってやってごらん。
ほら、パクってやって……」
泣きそうになるのが怖くって、
私はもうそれ以上を言葉にすることができませんでした。
「自分で、(頭を)起こしてられないの」
飼い主さんは気丈に振る舞ってくれていたけれど、
私は胸が詰まって
気の利いた言葉一つ絞り出すことができませんでした。
あぁ……、
「食べられないって言っても、流動食とかあるんでしょ?」とか、
「暑い夏を乗り切れば、回復してくるんじゃない?」とか、
まるで慰めにもならないことを、
ただつらつらと並べ立てていたような気がします。
玄関先のヒンヤリしたコンクリートの上にごんちゃんを寝かせると、
飼い主さんは、
あまり無理な延命はちょっと……、
ということを話してくれました。
勿論、1分でも1秒でも生きてほしい、
それが本音であったことに違いはありません。
それでも、ごんちゃんにとっての幸せを考えれば、
無理をさせず自然に任せる……ということだったのだと思います。
飼い主さんと私の間に寝そべったごんちゃんは、
寝ているのか、寝たふりして飼い主さんの声に耳を傾けているのか、
心なしか優しい笑みを浮かべているようにも見えて……。
ごんちゃんの柔らかい毛並みを撫でる私は、
彼を癒してあげているつもりが、
いつしか癒されていることに気付きましたね。
本当に、ギュッと抱き締めたくなるくらい、
優しくて穏やかな寝顔だったんですよね。
本当に危ない状態なのか信じられないままに、
その晩、私はごんちゃんの家を後にしました。
「ごんが死んじゃった」
その電話を受けたのは、
あれから1日と経たない翌日の昼過ぎのことでした。
ワンコの死を聞いてあんなに泣いたのは、
初めてのことでした。
その後、親しかったワンコ友達と集まりました。
ごんちゃんにお別れを言うためでした。
ごんちゃんの家へ向かう車内で、
私たちはなぜかごんちゃんとは無関係のバカ話でその場を繕い、
奇妙な緊張感を保ったまま車を走らせました。
ごんちゃんのことを話せば緊張の糸が切れてしまうことを、
みな一様に感じていたからだと思います。
ごんちゃんは、目一杯冷房の効いた部屋で、
花に囲まれて横たわっていました。
まるで、眠っているだけのように見えました。
たもつはそっと歩み寄ると、
いつものようにごんちゃんの口元に鼻先を近づけました。
何を、思ったんでしょうね。
普段ならしつこいくらいごんちゃんの口元を舐めに行くたもつが、
その日はそれ以上纏わりつくことをせず……。
ごんちゃんの身体は、まだ熱を持っているようでした。
本当に亡くなっているのが信じられないくらい、
身体はほんのりと温かく、その毛もいつものように柔らかでした。
たもつにそっくりの口元を撫でながら、
ごんちゃんが本当に亡くなってしまったということを、
私は無理やり実感に変えようとしていましたね。
その後暫くごんちゃんを囲んで会話を交わしていましたが、
なぜかたもつが、ごんちゃんの元へ近寄ろうとしないんです。
一緒に訪れた音吉さん(ごんちゃんの後輩ワンコ)が、
ごんちゃんの眠る布団の端っこでまったりしているのにも関わらず、
たもつはなぜか、その部屋を出たいと愚図り始め……。
なんだかいつもと違う……。
たもつは、少しだけ、怖かったのかもしれません。
大好きなごんちゃんが少しずつ冷たくなっていっていることに、
たもつは耐えられなかったのでしょう。
翌日は前日に続き、太陽がギラギラと輝く暑い日でした。
たもつは私たちとは距離を置き、
独り和室の窓際でぼんやりと空を仰いでいたんですよね。
それは、お昼を少し過ぎたときのことでした。
たもつが突然空に向い、
「ワォ~ン」と鳴いたんです。
それは威嚇の声でも恐怖に怯えた声でもなく、
それまで一度も聞いたことのない、
なんとも切なくやるせない鳴き声だったんです。
「ごんちゃんが、来たの?」
咄嗟に、夫と私は顔を見合わせましたね。
その時刻も、たもつが見上げたその空の方角も、
ごんちゃんが荼毘に付されると聞いていた、
時刻と方角を指していたからでした。
抜けるような青空に向かい、
掠れたような声で、たもつは2回3回と鳴きました。
ごんちゃんが、
「さよなら」を言いに来てくれたのだと思いましたね。
たもつはもしかしたら、
「どこ行くのーっ! 行かないでーっ!」って、
必死に叫んでいたのかもしれません。
私たちの中に不思議な空気が漂い、
ごんちゃんは本当にお空の向こうに旅立ったのだ、
たもつはちゃんとお別れすることができたのだと、
私たちは自分たちを納得させることができたような気がします。
それでも……。
たもつを連れて歩くいつもの公園、
その公園の向こうから、
ごんちゃんを後ろに乗せ猛スピードで自転車を漕ぐ彼女の姿が現れるのではないかと、
たもつも私も淡い期待を抱きながらその方向へ目を遣り、
そして落胆し、
二人何事もなかったかのようにトボトボと散歩を続ける日々が、
その後暫くの間は続きましたね。

大人しく後ろカゴに乗ってたよねぇ。
そのうちたもつも彼女の自転車を探すのを止め、
つられるように私も、期待することを諦めたのでした。
ごんちゃん、
天国で新しいお友達はできましたか?
知ってると思うけど、
サファイアのところに新入りちゃんが来ましたよ。
サファイアのこと、新入りぽん太のこと、
ずっと見守ってあげていてね。
たもつと仲良くしてくれて、本当にありがとうね。
天国でも幸せにね、ごんちゃん。

ごんちゃん たもつ
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