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通訳が必要

 ぼちぼち3週近くが過ぎようとしていますが、


 実は先月父を連れ病院をハシゴするという大変な1日を過ごす羽目になりました。


  その日実家を訪ねようと慌ただしく身支度する私のスマホが、


    珍しいことに早朝からけたたましく鳴り響きまして……。


 慌ててスマホを手に取ると、


   発信は実家で父と暮らす姉からでした。


「朝からごめん~。

(父が)『今日少し早めに来られますか?』って言ってるんだけど……」


  「へ? 早め?」


「やっぱり……脇腹痛いみたいなんだよね~」


  「あ。救急車呼ぶ、とか? ……じゃなくて?」


「うん。『自分で病院行く』って言ってるから。

    申し訳ないねぇ。少し、早めに来られる?」


  「オッケー、分かった。じゃあ、早めに出るよ」


  相手の都合を思い大概のことはメールで済ませる姉が、


 早朝から電話を鳴らすなど只事ではありません。


しかも、出勤前の慌ただしい時間帯に貴重な時間を割いてまで。


       
   「自分で病院行く」と言っているのは父。


    「脇腹が痛い」と言っているのも父です。


  実は前夜、


「(お父さんが)脇腹が痛いって言ってるんだけどさぁ。


    ちょっと、調べてみてくれる?」


   そんなメールが、姉から届いていたんですよね。


  実に、便利な時代になりましたよね。


 今は、パソコン開いてチャチャっと検索すれば、


  「脇腹痛 原因」とか「脇腹痛 病名」とか、


 次から次へとわんさか出てきちゃいますからね。


  父曰く「右の脇腹が痛い……」のだそうで。


  「どうせ、肝臓かなんかだと思うんだけど」とは、姉の台詞。


「どうせ、酔っ払って蹴躓いてどっかで打ったんでしょ」とは、私の返信。


  これ、「どうせ」ってとこが重要なんです。


「おのれの日頃の行いを顧みんかいっ!」っていう父への思いが、


        見え隠れ(……隠れてないか)してますからね。


   あ、弁明するつもりもありませんが、


 私はともかく姉は決して冷血な人間などではありません。



   深夜までネットであれこれ検索していましたが、


  やっぱ素人判断より病院行く方が早いでしょ。


翌朝いつもより1時間以上早めに到着した私を待ち構えていた父は、


 診察券やら保険証やら準備万端の財布をポケットに突っ込んだ、


   少し厚手のジャケットを羽織ったままの姿で、


     力なくコタツに横たわっておりました。


  あれれ~、想像してた以上に弱っておいでだ……。



   じっと目を瞑ったままの父に声を掛けてみます。


「おはよ~。ほれ、病院行くじょ~」


   「うん」


「タクシー呼ぶから、オシ〇コしてきちゃって~」


   「ああ」


   ふ~ん、やけに素直だね。
  
 

    病院に着きました。


 平日の午前中、待合室を埋めるのは年配の患者とその付き添いばかり。


   「あ? へぇ? あっと、今日は何しに来たんだっけか?」


「あっそう? 血圧の薬? 先生、そんなの必要だって言ってたぁ?」


  受付の女性相手に出口の見えない問答を繰り広げるお年寄り。


    そんな彼らにぼんやりと目を遣りながら、


  「(年取ると)大変そうだな」と呟く我が父。


   そっか、うちの方がまだマシか……。



     診察室に呼ばれました。


   勿論、私も付き添います。


  「今日はどうされました?」


「ここらへん(脇腹)が痛くて……」


  「ちょっと、診てみましょうか。えっと、この辺りですか?」


  確認しながら、医師は父の脇腹に指先をグッと押し当てます。


「あたたたたっ!」


  「これ、骨……ですね」


「へ?」


  「骨……でしょう」


「骨? ……ですか?」


  医師曰く「内臓(疾患)の場合、もっと奥の方までグッと押し込まないと痛みを感じない。


表面触っただけでこれだけ痛みを感じるのは骨(の異常)ですよ」


      とのことでした。


   なんだ、肝臓でも胆嚢でもなかったのね。


  いや決して、落胆してる訳じゃあないんですよ。


   けどね、若干の期待はありましたよ。


  「いけませんねぇ。肝臓がだいぶ疲れてますよ。


     このまま飲み続けてたら命の保障はありませんよ」


    ……くらい、言ってほしかったんですけどね、先生に。


  レントゲン撮影しても内臓に異常は見つからず……。


   異常が見つからず安堵しておりますよ、勿論。


  「不安なら、血液検査しましょうか?」と医師。


「(お父さん)どうする?」とせっつく私。


  「うん」と頷く父。


「じゃあ、しますっ!(血液検査)お願いします」と代返する私。



「あと……それから、目眩だっけ? 目眩がするんじゃなかった?」と促す私。


  「ああ。目が回るような気が……」と呟く父。


  「いつ頃からですか?」と医師。


「いつ頃からですか?」と再度父をせっついてみせる私。



   通訳がね、必要なんですよ、父には。


  あ、当然ですが、医師も私も父も共通の言語を持つ日本人です。


 それから「更に不安なら、整形外科を受診してみては?」


    との助言も頂きました。


  聞いているのかいないのか、はたまた聞こえていないのか……。


   肝心の父の反応が薄いのを見て取ると、


医師は私の方へと向き直し今後の対応含め説明をしてくださいました。


   あぁ、今、母の役目をやってるなぁ私。


口下手の父に代わり外部との折衝を全て請け負っていた母の苦労を想像し、


    私はなにやら可笑しくなってきてしまいました。


    
  結局、湿布薬以外これといった治療を受けられた訳でもなく、


 待合室で会計を待つ間、私たちは途方に暮れてしまいました。


  隣を見遣ると、黙って天井を仰いだまま父は痛みに耐えています。


「先生『整形外科で診てもらえば?』って言ったけど」


  「あぁ」


父の財布を引っ張り出し、掛かりつけ整形外科の診察券を取り出します。


「あ。今日、午前中だけやってるね。

          どうする? これから行ってみる?」


  「うん」



  この日は、突然の春の嵐が吹き荒れた一日。


 黄砂を含んだ薄黄色の強風に煽られて、タクシーを待つその間、


   痩せっぽちの父は路上で足元をふら付かせています。


  あれれ~、すっかり足腰弱くなったねぇ。



  タクシーに乗り込み行先を告げます。


 暫くの間黙り込んでいた父が、ふと口を開きました。


  「……で? (内科の)先生、何だって?」


           


    想像してはいましたが、


やはり、医師の説明にまるっきり上の空だった模様の父。


「だからさぁ……(ええいっ、手が掛かるわい!)」


 眉間にしわを寄せる私に向かい、運転手さんが声を掛けます。
      

  「あれ? 今日、休みじゃないですか?」


「え?」


   タクシーのフロントガラスに目を遣ると、


 閑散とした駐車場に、ブラインドの下りきった入口。


    どう見ても、閉まっています。


  診療日と信じて向かった整形外科がなぜに休診!?

 
  暫く通わなかった間に、診療日が変わっていたようです。



        なにこれ……。


   
   タクシーにUターンをお願いし、そのまま帰宅。


  痛みに耐えつつ脇腹を抑える父には悪いけど、


 一連の騒動がなんだか可笑しく、笑いを堪えるのにもう必死ですよ。



    バタバタ空回りする私とは対照的に、


 「うん」と「あぁ」だけでその日1日をやり過ごそうとしている父。


   今更ながら母の苦労(徒労か?)に思いを馳せ、


  夫婦の形も実に様々なのだと、


 至極当たり前のことを再認識させられた私だったのでした。



    後日姉に連れられ整形外科の診察を受けた父。

 
折れてはいないというものの、肋骨にヒビが入っていた模様です。


     原因は、分からず仕舞い。


 酔っ払って蹴躓いたに違いない!


   そう思い込もうとしていた非情な私ですが、


    友人に話をすると、


 『脆弱性骨折』というのもあるということを聞かされまして……。


   顔見てるだけじゃ分からない、父の脆弱になっている部分に、


    もっともっと目を向けてあげなくちゃいけないと、


  すっかり反省してしまった私です。



    1週間後に控えるは母の三回忌法要。


 墓地までのひどく急な坂道を、


   父は果たして自力で登ることができるのかしら。


    私は心を鬼にして、


  弱り切った父の足腰を再度鍛え上げさせるつもりです。


 もはや母のお墓を訪ねることができないと思い知らされるようなことになれば、


   父は恐らく、


  今後様々なことを諦めてしまうようになるでしょう。


     まだまだできるよ!


  ちょっぴりメンドーなのは否めないけれど、


 その面倒臭い父に、今しばらく付き合うつもりの私です。





    実家の干からびた庭にも、


     少しずつですが春が訪れています。



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      ついでに我が家の坊主の写真。



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                ……壇蜜風 

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プロフィール

たもこ

Author:たもこ
生後2ヵ月で我が家にやってきた柴犬たもつ。
日々進化を続けるたもつと彼に翻弄される犬素人夫婦の日常を綴ります。
旧名たもつ先生です。
たもつ ♂ 
2007年10月19日生まれ

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