ガス、ついてます
実家の父のことですが……、
このところ物忘れが激しくなってきています。
老齢ですからね。
新しいことを覚えるのが容易くないのは勿論のこと、
当然知っているべきことも簡単には思い出せなくなってきていたりして。
本人も「あれ? なんだったっけなぁ、ちょっと思い出せないや」
と、少々の戸惑いを覚えてはいるようですが、
それでも最近は「やっぱり歳だなぁ」
なんて能力の低下を受容する術を覚えたりするようにもなり……。
勿論、少々の物忘れであれば気に病むこともありません。
否、少々の物忘れであれば寧ろ歓迎に値するいうというものです
(← 鬼ですね、私)
昨年の大河ドラマ、「平清盛」で盛り上がっていましたよね。
そんな年には必ず
「保元の乱はどんな勢力の争いだったか知ってるか?」などとしち面倒臭いことを訊かれ、
「さぁ~?」などと考えなしの返答をしようものなら、
「まったく、学校でなに勉強してたんだ!?」
と、説教を食らう破目になるのは必然でして……。
そんなこともあり、
本人曰く「頭脳明晰」な父の頭脳が少しくらい「ぼんやり」してくることは、
ちっとも「明晰」じゃない頭脳を持つこちらの身としては、
歓迎こそすれ否定的になる要因など一つもない訳でありまして……。
しかしながら、最近の父の「ぼんやり」具合、
少々否大いに危惧すべき状況になってきているのです。
……というのも、
「スルメを焼いてることを忘れて『炭』にしちゃったらしい」とか、
「今度はアジの開きを『炭』にしちゃった」だとか……。
いずれも、父独りきりのときに起きている“事件”なんですよね。
これでは、いつ実家が『炭』になってしまうか、
いやいや、いつ父自身が『炭』になってしまうか分かったものではありません。
対策を講じました。


これ、200円ほどで手に入る「カード立」です。
ここに、
台所 ガス ついてます
と入れました。
急ごしらえなので、手書きです。
歪んだ手書き文字のボードを見た夫は「なんと涙ぐましい」と半笑い。
そしてその反応に、
なぜだか私も大笑い(ホントは笑ってる場合じゃないんですけどね)
それでも、翌日父に手渡すまで私は不安を拭いきれませんでした。
プライドの高い父のこと、
「注意喚起」を促すこの札が彼の自尊心を傷付けないとも限らない訳ですから。
昨日実家を訪ねた際、
私は恐る恐るこの札を父の前に差し出しました。
「スルメを炭にしちゃったって聞いたよ~」
父は一瞬黙り込み、そして記憶を手繰り寄せているように見えました。
あれれ、数日前の失敗も既に忘却の彼方ですか?
「危ないじゃん、○○ちん(←父のこと)まで炭になっちゃったら堪んないよぉ~」
「こういうの、私も使ってるんだよ(ウソだけど)」
「私もね、火つけたまま忘れちゃうことがあるからさ(これはホント)」
「ガス台つけたらさ、目立つところにこの札置いておけばいいじゃん」
畳みかけるように言いたい事だけ捲し立てると、
私は父の顔を覗き込みました。
「そっか、字が小さ過ぎるね。今度太い字で作り直してくるよ」
「……このままで、いいよ」
私の勢いに押されていた父が、初めてそう口を開きました。
自分の失敗を責められたと感じたか、
或いは自分の衰えを思い知らされたと感じたか、
その時の父が何を思ったのかは分かりません。
それでも、その札を黙って受け入れた父の気持ちを思うと、
嬉しいよりなぜか切なく、
その後は父の顔をあまり見ることもなく私は早々に実家を後にしたのでした。
そんな子供騙しの策で、父のウッカリを防止できるかどうかは分かりません。
あの札も時間が経てば居間の中の風景の一つと化してしまうことでしょう。
それでも今は、自分たちに出来得ることをするしかないのです。
実家にこれ以上の『炭』が増えないことを今はただ祈るばかりの私です。
ところで、私の「ウッカリ」防止の方ですが……。
実は、この方が非常に力を発揮してくれているのです。

私が食べた菓子パンの袋に頭を突っ込んで、
必死にペロリンしているたもつさんですが……。

母ちゃん、なんか異音が聞こえてきてますが
「なぁにぃ、たもちゃん。台所なんかに用ないでしょ~?」

母ちゃ~ん、これでもぉ?
「ひゃっ
お湯沸かしてたの忘れてたっ
」
たもちゃん、いつもお世話になってます
このところ物忘れが激しくなってきています。
老齢ですからね。
新しいことを覚えるのが容易くないのは勿論のこと、
当然知っているべきことも簡単には思い出せなくなってきていたりして。
本人も「あれ? なんだったっけなぁ、ちょっと思い出せないや」
と、少々の戸惑いを覚えてはいるようですが、
それでも最近は「やっぱり歳だなぁ」
なんて能力の低下を受容する術を覚えたりするようにもなり……。
勿論、少々の物忘れであれば気に病むこともありません。
否、少々の物忘れであれば寧ろ歓迎に値するいうというものです
(← 鬼ですね、私)
昨年の大河ドラマ、「平清盛」で盛り上がっていましたよね。
そんな年には必ず
「保元の乱はどんな勢力の争いだったか知ってるか?」などとしち面倒臭いことを訊かれ、
「さぁ~?」などと考えなしの返答をしようものなら、
「まったく、学校でなに勉強してたんだ!?」
と、説教を食らう破目になるのは必然でして……。
そんなこともあり、
本人曰く「頭脳明晰」な父の頭脳が少しくらい「ぼんやり」してくることは、
ちっとも「明晰」じゃない頭脳を持つこちらの身としては、
歓迎こそすれ否定的になる要因など一つもない訳でありまして……。
しかしながら、最近の父の「ぼんやり」具合、
少々否大いに危惧すべき状況になってきているのです。
……というのも、
「スルメを焼いてることを忘れて『炭』にしちゃったらしい」とか、
「今度はアジの開きを『炭』にしちゃった」だとか……。
いずれも、父独りきりのときに起きている“事件”なんですよね。
これでは、いつ実家が『炭』になってしまうか、
いやいや、いつ父自身が『炭』になってしまうか分かったものではありません。
対策を講じました。


これ、200円ほどで手に入る「カード立」です。
ここに、
台所 ガス ついてます
と入れました。
急ごしらえなので、手書きです。
歪んだ手書き文字のボードを見た夫は「なんと涙ぐましい」と半笑い。
そしてその反応に、
なぜだか私も大笑い(ホントは笑ってる場合じゃないんですけどね)
それでも、翌日父に手渡すまで私は不安を拭いきれませんでした。
プライドの高い父のこと、
「注意喚起」を促すこの札が彼の自尊心を傷付けないとも限らない訳ですから。
昨日実家を訪ねた際、
私は恐る恐るこの札を父の前に差し出しました。
「スルメを炭にしちゃったって聞いたよ~」
父は一瞬黙り込み、そして記憶を手繰り寄せているように見えました。
あれれ、数日前の失敗も既に忘却の彼方ですか?
「危ないじゃん、○○ちん(←父のこと)まで炭になっちゃったら堪んないよぉ~」
「こういうの、私も使ってるんだよ(ウソだけど)」
「私もね、火つけたまま忘れちゃうことがあるからさ(これはホント)」
「ガス台つけたらさ、目立つところにこの札置いておけばいいじゃん」
畳みかけるように言いたい事だけ捲し立てると、
私は父の顔を覗き込みました。
「そっか、字が小さ過ぎるね。今度太い字で作り直してくるよ」
「……このままで、いいよ」
私の勢いに押されていた父が、初めてそう口を開きました。
自分の失敗を責められたと感じたか、
或いは自分の衰えを思い知らされたと感じたか、
その時の父が何を思ったのかは分かりません。
それでも、その札を黙って受け入れた父の気持ちを思うと、
嬉しいよりなぜか切なく、
その後は父の顔をあまり見ることもなく私は早々に実家を後にしたのでした。
そんな子供騙しの策で、父のウッカリを防止できるかどうかは分かりません。
あの札も時間が経てば居間の中の風景の一つと化してしまうことでしょう。
それでも今は、自分たちに出来得ることをするしかないのです。
実家にこれ以上の『炭』が増えないことを今はただ祈るばかりの私です。
ところで、私の「ウッカリ」防止の方ですが……。
実は、この方が非常に力を発揮してくれているのです。

私が食べた菓子パンの袋に頭を突っ込んで、
必死にペロリンしているたもつさんですが……。

母ちゃん、なんか異音が聞こえてきてますが

「なぁにぃ、たもちゃん。台所なんかに用ないでしょ~?」

母ちゃ~ん、これでもぉ?
「ひゃっ


たもちゃん、いつもお世話になってます

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