207円
唐突ですが……、
「207円」という金額に、みなさんはどういう印象を持たれますか?
正直「高額だぁ」と感じる方は……あまりいないと思います。
でも「無条件に手放せる金額」でもないですよね?
この、微妙な線を行く「207円」のお陰で、
私は昨日からなんだかモヤモヤし続けているのです。
昨日、スーパーを訪れた時のことです。
夕刻ということもあり、レジはどこも長蛇の列でした。
慌てて列の最後尾へつくと、私の前には白髪のご婦人が並ばれていました。
彼女の手には、1缶のビールと1パックの日本酒。
一刻も早くレジを済ませるには、非常に有利な展開だ。
その時の私は、そう信じて疑いませんでした。
彼女の順番が回ってきました。
早く帰ってあげなくちゃ。
数時間家を空けていた私は、
玄関が開くと同時に満面の笑みを浮かべ飛び出してくるたもつの姿を思い浮かべ、
早々に財布を手にし、彼女の会計が済むのを待っていました。
「ふぅ」
それは、私の次に順番を待つ女性の溜め息でした。
前方を見遣ると、老婦人はなにやら会計を手間取っているようでした。
彼女は小さな鞄をレジカウンターに置くと、その中身を引っ掻き回しているのです。
「あらら?」
どうやら、財布が見付からないようでした。
「あらら? おかしいわねぇ」
手間取る老婦人の姿に嫌気が差したのか、
私の後に並ぶ女性はそそくさと別の列に並び替えました。
「あらら? 小銭が……」
レジ打ちの店員も、今にも溜め息を漏らしそうな表情を浮かべ彼女の手元を見つめています。
「チッ」
悪意に満ちた舌打ちに振り向くと、
私の後ろには老婦人とそう歳が変わらなそうに見える男性の姿が。
男性は食パン1斤をカウンターの上に放ると、
更に大きな音を立て聞こえよがしに舌打ちをしてみせました。
「ごめんなさいね」
老婦人のか細い声が胸に痛く、
私はなんとも居た堪れない気持ちになっていました。
その時です。
小さな鞄の中から、彼女は目にも眩しい黄色い長財布を取り出したのです。
良かった、財布忘れてきた訳じゃなかったんだ。
そう思ったのも束の間、
なぜかその財布を元へ戻すと、
彼女は再び鞄の中を引っ掻き回し始めたのです。
結局……、
店員は彼女の会計を後回しにすると、
私から続く長蛇の列の客たちをてきぱきと捌き始めました。
レジの先頭に立つ老婦人は、
相変わらず鞄の中を引っ掻き回し続け、
私の後に並んでいた男性は、
相変わらず忌々しそうに老婦人を睨み付けると、
早々に会計を終え店を後にしました。
私が店を出る時にも、
彼女は未だ鞄の中を引っ掻き回し続け、
彼女が手にしていた筈の1缶のビールと1パックの日本酒は
未だレジカウンターの上に取り残され……。
私は、いったい彼女に何をしてあげれば良かったのでしょう?
「207円」というのは、彼女の購入金額です。
決して覗き見するつもりはなかったけれど、
レジに表示された金額、つい見てしまったんですよね。
お財布忘れちゃったのかしら?
困っているようだから「代わりに払いましょうか?」
と言った方がいいのかな?
だって、たかだか「207円」のことだもの。
あっ、お財布出てきたみたい。
良かった。これで、お節介なことしないで済みそう。
あれ? お財布出てきたのに支払わないのかしら?
「207円」……、
手持ちが足りないという金額じゃあないと思うけど。
長財布を仕舞っちゃったってことは、
小銭入れでも探し始めたのかな。
やっぱり「私が払いましょうか?」と言った方がいいのかな?
知らないご婦人だけど、たかだか「207円」のことなんだし。
でも夫が稼いできてくれた大切なお金、
たかだか「207円」なんて思っちゃいけないよね。
それとも「207円」失くしたことにして、
彼女の代わりに支払っちゃう?
その方が、この状況が丸く収まるかもしれないし。
でも、もしかしたらご婦人に失礼かもしれないよね。
「207円」くらい持ってます!って、
機嫌を損ねることにもなり兼ねないし。
結局答えは見つからないまま、
私は老婦人の助けになってあげることもできず、
追われるように店を後にしました。
どうしてあげることが彼女のとっての最善だったのか、
今でも私には答えが見つからないのです。
本日のたもやん 

そのチョコちょーだい
「 無理です
」
「207円」という金額に、みなさんはどういう印象を持たれますか?
正直「高額だぁ」と感じる方は……あまりいないと思います。
でも「無条件に手放せる金額」でもないですよね?
この、微妙な線を行く「207円」のお陰で、
私は昨日からなんだかモヤモヤし続けているのです。
昨日、スーパーを訪れた時のことです。
夕刻ということもあり、レジはどこも長蛇の列でした。
慌てて列の最後尾へつくと、私の前には白髪のご婦人が並ばれていました。
彼女の手には、1缶のビールと1パックの日本酒。
一刻も早くレジを済ませるには、非常に有利な展開だ。
その時の私は、そう信じて疑いませんでした。
彼女の順番が回ってきました。
早く帰ってあげなくちゃ。
数時間家を空けていた私は、
玄関が開くと同時に満面の笑みを浮かべ飛び出してくるたもつの姿を思い浮かべ、
早々に財布を手にし、彼女の会計が済むのを待っていました。
「ふぅ」
それは、私の次に順番を待つ女性の溜め息でした。
前方を見遣ると、老婦人はなにやら会計を手間取っているようでした。
彼女は小さな鞄をレジカウンターに置くと、その中身を引っ掻き回しているのです。
「あらら?」
どうやら、財布が見付からないようでした。
「あらら? おかしいわねぇ」
手間取る老婦人の姿に嫌気が差したのか、
私の後に並ぶ女性はそそくさと別の列に並び替えました。
「あらら? 小銭が……」
レジ打ちの店員も、今にも溜め息を漏らしそうな表情を浮かべ彼女の手元を見つめています。
「チッ」
悪意に満ちた舌打ちに振り向くと、
私の後ろには老婦人とそう歳が変わらなそうに見える男性の姿が。
男性は食パン1斤をカウンターの上に放ると、
更に大きな音を立て聞こえよがしに舌打ちをしてみせました。
「ごめんなさいね」
老婦人のか細い声が胸に痛く、
私はなんとも居た堪れない気持ちになっていました。
その時です。
小さな鞄の中から、彼女は目にも眩しい黄色い長財布を取り出したのです。
良かった、財布忘れてきた訳じゃなかったんだ。
そう思ったのも束の間、
なぜかその財布を元へ戻すと、
彼女は再び鞄の中を引っ掻き回し始めたのです。
結局……、
店員は彼女の会計を後回しにすると、
私から続く長蛇の列の客たちをてきぱきと捌き始めました。
レジの先頭に立つ老婦人は、
相変わらず鞄の中を引っ掻き回し続け、
私の後に並んでいた男性は、
相変わらず忌々しそうに老婦人を睨み付けると、
早々に会計を終え店を後にしました。
私が店を出る時にも、
彼女は未だ鞄の中を引っ掻き回し続け、
彼女が手にしていた筈の1缶のビールと1パックの日本酒は
未だレジカウンターの上に取り残され……。
私は、いったい彼女に何をしてあげれば良かったのでしょう?
「207円」というのは、彼女の購入金額です。
決して覗き見するつもりはなかったけれど、
レジに表示された金額、つい見てしまったんですよね。
お財布忘れちゃったのかしら?
困っているようだから「代わりに払いましょうか?」
と言った方がいいのかな?
だって、たかだか「207円」のことだもの。
あっ、お財布出てきたみたい。
良かった。これで、お節介なことしないで済みそう。
あれ? お財布出てきたのに支払わないのかしら?
「207円」……、
手持ちが足りないという金額じゃあないと思うけど。
長財布を仕舞っちゃったってことは、
小銭入れでも探し始めたのかな。
やっぱり「私が払いましょうか?」と言った方がいいのかな?
知らないご婦人だけど、たかだか「207円」のことなんだし。
でも夫が稼いできてくれた大切なお金、
たかだか「207円」なんて思っちゃいけないよね。
それとも「207円」失くしたことにして、
彼女の代わりに支払っちゃう?
その方が、この状況が丸く収まるかもしれないし。
でも、もしかしたらご婦人に失礼かもしれないよね。
「207円」くらい持ってます!って、
機嫌を損ねることにもなり兼ねないし。
結局答えは見つからないまま、
私は老婦人の助けになってあげることもできず、
追われるように店を後にしました。
どうしてあげることが彼女のとっての最善だったのか、
今でも私には答えが見つからないのです。



そのチョコちょーだい

「 無理です

スポンサーサイト