分離不安なのは……
たもつも私も大好きなお友達が先日グァム旅行へ行ったと聞き…… 
「いいなぁ、いいなぁ
」
彼女の家にはお留守番のご家族が居る為、ワンコたちのお世話の心配もなく
「いいなぁ、いいなぁ
たもつが来てから、うちは海外旅行の話とか一切出なくなったもんねぇ
」
「だから~『たもつを預かってあげる
』って、前から言ってるじゃん
」
「え~。でも、分離不安になっちゃうよぉ
」
「えぇ
」
「たもつが、じゃないよ
わ・た・し・が
」
「…………はぁ
」
そうなんです……。
分離不安(※)の懼れがあるのはたもつではなく、この私の方なのです。
※分離不安症
飼い主が一緒にいる時には問題がないにも関わらず、
独りになると不安を感じ問題行動をとること。
分離不安
2007年12月にたもつを迎えてからというもの、彼を他所に預けたのは3回だけ。
どれも止むに止まれぬ事情からでした。
初めて預けたのは我が家に迎えてほんの数週間後、まだお散歩デビューすらしていないこんな小さな頃のことです。

大切な方のお見舞いに宮城へ向かう為、お世話になり始めたばかりの病院にたもつを預けることを私たちは決めました。
そしてその日会社から飛んで帰った私は幼いたもつを有無を言わせずリュックに押し込むと、慌てて外へと飛び出しました。
閉まる直前の病院に、彼を送り届けなければならなかったからです。
リュックの中で落ち着かないたもつを背負って歩くには、病院まではひどく遠い道のりでした。
私は迷いながらも、迫りくるタクシーに向かい思わずその手を挙げていたのです。
「トランクを開けてもらえばいいよ」
果たして、タクシーに動物を乗せることができるのか。
それすら知らない私たちは、カバンごとたもつをトランクに押し込める、事前にそう打ち合わせていました。
しかし、いざタクシーが停車してみると、私は彼を暗闇に押し込むのを躊躇せずにはいられませんでした。
「すみません、お願いします」
結局私は、何食わぬ顔でリュックを座席の上に置くと、乗務員に行先を告げました。
(静かに、静かにね)
ファスナーを僅かに下ろしたその隙間に指先を押し当てると、たもつを安心させようと私は神経を集中させていました。
くぅ~ん
「シーッ」
恐らく、乗務員の方は気付いていたと思います。
それでも嫌な顔一つせず、彼は私たちを動物病院まで送り届けてくれたのです。
ペットとお出掛け
上記のサイトによると……、
確かに動物アレルギーを持った乗務員の方もいらっしゃるかもしれません。
ペットを乗せる際には、事前に確認が必要になると思います。
たもつを容易に運べる入れ物を探すこと、たもつを無事病院へ送り届けること、そのことで頭が一杯だった私は、手ぶらで独り帰宅すると途轍もない虚無感に襲われていました。
それは、彼の匂い、彼の体温を、いつもこうして感じていたせいかもしれません。

そして、空になったケージの中にたもつの抜け毛を見付けると、私は声を上げて泣きました。
まだ獣臭さの残る綿毛のような彼の毛は、掻き集めようとする私の指の間をするりと擦り抜けます。
私はひと塊の綿毛を拾い上げると、大切にそれをハンカチで包み込んでいました。
家族になって僅か数週間、その彼が家を空け大いなる喪失感に襲われたことに、私は戸惑いを覚えずにはいられませんでした。
そして、遠い将来本当に彼を喪った時のことを妄想し、私は再び哀しみに暮れたのです。
初めての外泊が生後2ヵ月半ほどの頃、2度目の外泊が生後4ヵ月を少し過ぎた頃でしょうか。

2度目の外泊は少々長くなりましたが、それでもたもつは、元気な様子で私たちの前に姿を現してくれました。
幸いなことに、たもつは病院のスタッフのことが大好きでした。
彼らに囲まれ、たもつは寂しさを紛らわせ過ごすことができたのかもしれません。
ですが、3度目の外泊を終えた後、私たちは彼の様子にひどく驚かされることになりました。
その時彼は1歳と8ヵ月、人間で言えば物心ついてから相当の月数が過ぎていた頃と思われます。
朝一番で病院を訪ねると、たもつはいつものように大胆なジャンプを披露し私たちを大袈裟に出迎えてくれました。
「良かった、元気そうだね」
軽快な足取りで病院を後にするたもつの姿に、彼を預ける時に感じた不安は杞憂に過ぎなかったと私たちも安堵していたのです。
7月上旬のその日、降り注ぐ日差しも眩しいその河原で、たもつは久しぶりに燥いでいました。
そして無邪気な笑顔を見せるたもつの顔に、私は見慣れないものを発見したのです。
それは、黒くて湿った彼の鼻に刻まれた小さな凹みでした。
縦1本、ちょうどケージの幅を思わせる凹みです。
そして、その凹みの端には擦り剝けたような小さな傷跡が……。
彼は恐らく、

出してよぉ
おうちに帰りたいよぉ
と、叫んでいたに違いありません。
そんな彼のことが益々愛おしく、できる限り家族離れずに過ごそうと、その日私たちは強く誓い合ったのでした。


「いいなぁ、いいなぁ

彼女の家にはお留守番のご家族が居る為、ワンコたちのお世話の心配もなく

「いいなぁ、いいなぁ


「だから~『たもつを預かってあげる


「え~。でも、分離不安になっちゃうよぉ

「えぇ

「たもつが、じゃないよ


「…………はぁ


そうなんです……。
分離不安(※)の懼れがあるのはたもつではなく、この私の方なのです。
※分離不安症
飼い主が一緒にいる時には問題がないにも関わらず、
独りになると不安を感じ問題行動をとること。
分離不安
2007年12月にたもつを迎えてからというもの、彼を他所に預けたのは3回だけ。
どれも止むに止まれぬ事情からでした。
初めて預けたのは我が家に迎えてほんの数週間後、まだお散歩デビューすらしていないこんな小さな頃のことです。

大切な方のお見舞いに宮城へ向かう為、お世話になり始めたばかりの病院にたもつを預けることを私たちは決めました。
そしてその日会社から飛んで帰った私は幼いたもつを有無を言わせずリュックに押し込むと、慌てて外へと飛び出しました。
閉まる直前の病院に、彼を送り届けなければならなかったからです。
リュックの中で落ち着かないたもつを背負って歩くには、病院まではひどく遠い道のりでした。
私は迷いながらも、迫りくるタクシーに向かい思わずその手を挙げていたのです。
「トランクを開けてもらえばいいよ」
果たして、タクシーに動物を乗せることができるのか。
それすら知らない私たちは、カバンごとたもつをトランクに押し込める、事前にそう打ち合わせていました。
しかし、いざタクシーが停車してみると、私は彼を暗闇に押し込むのを躊躇せずにはいられませんでした。
「すみません、お願いします」
結局私は、何食わぬ顔でリュックを座席の上に置くと、乗務員に行先を告げました。
(静かに、静かにね)
ファスナーを僅かに下ろしたその隙間に指先を押し当てると、たもつを安心させようと私は神経を集中させていました。
くぅ~ん
「シーッ」
恐らく、乗務員の方は気付いていたと思います。
それでも嫌な顔一つせず、彼は私たちを動物病院まで送り届けてくれたのです。
ペットとお出掛け
上記のサイトによると……、
確かに動物アレルギーを持った乗務員の方もいらっしゃるかもしれません。
ペットを乗せる際には、事前に確認が必要になると思います。
たもつを容易に運べる入れ物を探すこと、たもつを無事病院へ送り届けること、そのことで頭が一杯だった私は、手ぶらで独り帰宅すると途轍もない虚無感に襲われていました。
それは、彼の匂い、彼の体温を、いつもこうして感じていたせいかもしれません。

そして、空になったケージの中にたもつの抜け毛を見付けると、私は声を上げて泣きました。
まだ獣臭さの残る綿毛のような彼の毛は、掻き集めようとする私の指の間をするりと擦り抜けます。
私はひと塊の綿毛を拾い上げると、大切にそれをハンカチで包み込んでいました。
家族になって僅か数週間、その彼が家を空け大いなる喪失感に襲われたことに、私は戸惑いを覚えずにはいられませんでした。
そして、遠い将来本当に彼を喪った時のことを妄想し、私は再び哀しみに暮れたのです。
初めての外泊が生後2ヵ月半ほどの頃、2度目の外泊が生後4ヵ月を少し過ぎた頃でしょうか。

2度目の外泊は少々長くなりましたが、それでもたもつは、元気な様子で私たちの前に姿を現してくれました。
幸いなことに、たもつは病院のスタッフのことが大好きでした。
彼らに囲まれ、たもつは寂しさを紛らわせ過ごすことができたのかもしれません。
ですが、3度目の外泊を終えた後、私たちは彼の様子にひどく驚かされることになりました。
その時彼は1歳と8ヵ月、人間で言えば物心ついてから相当の月数が過ぎていた頃と思われます。
朝一番で病院を訪ねると、たもつはいつものように大胆なジャンプを披露し私たちを大袈裟に出迎えてくれました。
「良かった、元気そうだね」
軽快な足取りで病院を後にするたもつの姿に、彼を預ける時に感じた不安は杞憂に過ぎなかったと私たちも安堵していたのです。
7月上旬のその日、降り注ぐ日差しも眩しいその河原で、たもつは久しぶりに燥いでいました。
そして無邪気な笑顔を見せるたもつの顔に、私は見慣れないものを発見したのです。
それは、黒くて湿った彼の鼻に刻まれた小さな凹みでした。
縦1本、ちょうどケージの幅を思わせる凹みです。
そして、その凹みの端には擦り剝けたような小さな傷跡が……。
彼は恐らく、

出してよぉ

おうちに帰りたいよぉ

と、叫んでいたに違いありません。
そんな彼のことが益々愛おしく、できる限り家族離れずに過ごそうと、その日私たちは強く誓い合ったのでした。

スポンサーサイト